誰も教えてくれなかった「脱力」の本当の意味


□あなたが知らない本当の「脱力奏法」


ピアノの奏法を語る上で必ず目にするのが
「脱力」というキーワードです。


しかしこの「脱力」、
一体どの部分の力をどうやって抜いたらいいのか
明確に示してくれる教師や書籍にはなかなかお目にかかれません。


そこで今回は、私が今までに学んだことと
私自身の経験から考えた
「脱力の本質」についてお話ししようと思います。



なぜ「脱力」なのか?



脱力とは、指を手や腕の余分な重みから解放し、
より素早い自由な動きを可能にすることです。

ご存知の方も多いかと思いますが
指に筋肉は存在しません。
骨と繋がった腱があり、
それが伸縮することで指が動きます。

ですから脱力は「指の脱力」ではありません。
正しくは
「指を余分な圧力(重み)から解放すること」です。

指を余分な圧力から解放してやるとどうなるか
以下のようなメリットがあります。


・早いパッセージが楽々弾けるようになる。
・タッチコントロールが自在になる。
・演奏がピアノの個性や状態に左右されにくくなる


つまり、あなたのレパートリーと
音楽表現の幅は大きく広がります。

さらには本番でピアノが違うからと言って
タッチコントロールが効かなくなることもなく、
このブログの本分である「あがり症克服」
にも大きく利益をもたらすのです。



逆に、脱力ができない人は、
指に、手や腕の重みが無駄にかかった状態で
弾くことになるため、
速いパッセージを弾くことができません。

これは例えるなら、
足枷をはめてタップダンスを
するようなものです。

さらに音色は単色になり、
音楽は鈍重でリズム感皆無の田吾作節になります。

はっきり言って、
大抵のアマチュアはこの状態であると思います。

リズム感がまるでない。
歌心にも大きな問題を抱えていそうですが、
脱力ができていないことが
大きな要因のひとつであるように思います。



□脱力への第一段階


脱力の大前提として、肩から腕にかけて
無駄な筋肉を使っていてはいけません。

無駄な力が入っていると
腕の重みがうまく指先に伝わらなくなるからです。

そこで先に肩から腕にかけて
脱力した状態を作っていただきます。

それには力をゼロにした状態から
必要な力のみを使っていく方法をとります。


ここであなたには
ピアノの前に座っていただこうと思います。



1、完全に脱力した状態から前腕を持ち上げる


まず完全に腕の力を抜いてください。
あなたの腕は今、
だらんと下に垂れ下がった状態になっていますね。

次に、手を鍵盤の上に乗せるために
肘を90度曲げます。

ここで意識していただきたいのは、
あくまで「肘を曲げるだけ」ということです。
腕を上に持ち上げたり
手首を動かしたりしようとはしないでください。


ここで使う筋肉(肩や胸から上腕の筋肉)が、
ピアノを弾くのに必要な力を生み出す第一の筋肉です。

しかし、このままでは
あなたの手首はだらんと下に垂れ下がり、
さながら怪談話の幽霊のような
格好になっていることと思います。

当然これではピアノは演奏できません。


そこで次です。



2、手首を持ち上げる


手首を腕と平行にします。
(手の甲がほぼ水平になった状態)
これで手を鍵盤上に設置することができます。

この動作に使う筋肉は主に
前腕(肘から先)の筋肉です。
手首を動かす際にどの筋肉が
動いているか感じてみてください。

さて、ここで注目いただきたいのが
指先の状態です。

あなたがしっかりと実践できていれば
今、あなたの指先は丸まっているはずです。

そう、人間の指は丸まっているのが普通
なのです。
そしてその状態がピアノを弾く上で
最適な手の形となります。


よく言われるような、
「手を丸めて卵型に」だとか、
「手の甲と指の第2関節までを平行にする」
だとかいうのは、全く必要ないのです。

それはどちらも一面の真理を言い当てはいるにせよ、
実際にそんなことを意識しても
結局は無駄な筋肉を硬直させるだけです。


手の形などこだわらずとも、
腕を持ち上げてそのまま手を鍵盤に置けば、
自然と弾き始めることができるはずなのです。



話が逸れました。
ここまでで使ったのは
「肘を曲げる筋肉」「手首を曲げる筋肉」
この2種類でした。



試しに今の状態
(鍵盤上に手を設置させた状態。
指を曲げ伸ばししたりしない。)
から肘を動かして鍵盤を弾いてみてください。
ちゃんと和音が弾けるはずです。


さてこの次に必要な筋肉は
「肘を移動させる筋肉」
「手首を回転させる筋肉」です。



3、肘の移動


まず「肘を移動させる筋肉」。

先ほどまでの2種類の筋肉を使った結果、
あなたは今、ピアノの中音域の
和音をつかめるようになりました。

しかしこれではせいぜい
2オクターブ程度の音域しか届きません。

さらに高音側、低音側へ手を移動させるためには、
肘を外側へ広げます


注意していただきたいのは、あくまで
「肘を動かすこと」であって、
「前腕を外側へ向けること」ではない、
ということです。


肘を外側へ動かす動作によって
あなたは今およそ5オクターブ程度の音域に
手が届くようになったと思います。

ここまでであなたは
跳躍する和音を演奏することができるようになりました。

それ以上外側の音域に関しては、
身体全体を移動させることによって弾くのが基本です。


さて、あとはスケールさえ弾けるようになれば
あなたはどんな曲でも弾きこなせるようになります。

そのスケールを弾くために必要な動作が
「手首の回転」です。



4、手首の回転


今あなたの鍵盤上に置いた手は
手の甲が上になっているかと思います。
それをくるっと回して手の平を上にしてみてください。

今度は逆に、手の甲を上にくるっと持ってくる。

今、あなたが行なっている動作が「手首の回転」です。

実は単純なスケールであればこの動作で
ほぼ完結してしまいます。


ちなみに、今手首を回転させるにあたって
外回りで手首を回した方はいらっしゃるでしょうか?
いたとしたらご自身の出自を
ぜひお調べになってくださいね(笑)


人間の手首は内回りにしか回りません。当然ながら。

このために、スケールにおいて
上行の際は右手が弾きやすく、
下行の際は左手が弾きやすい
ということが起きるのです。


ここまで出てきた動作をおさらいすると、
「肘を曲げる」、「手首を腕と平行にする」、
「肘を外側へ動かす」、「手首を回転させる」
でした。


以上がピアノ演奏に必要な力のほぼ全てです。
これより他に無駄な力をいれて弾こうと
してはいけません。


しかし聞こえてきそうなのが
「指を動かせないではないか」という声です。

そう、確かにこれまで出てきた動作に
「指を動かす動作」は含まれていません。


私はあえてこの中にその動作を
含めませんでした。


その理由は、多くの人が指を動かす動作を
過大評価しているからです。

多くの人が一生懸命に指を動かそうとするあまり、
手先に余分な力が入り、
腕の動きを演奏に活かすことができていません。

しかし本当に意識すべきなのは上にあげた4つの動作、
その動作をするに必要な力であり、
それ以外の力はむしろ
意識して使わないようにするべきなのです。




□「脱力」の本質、指を重みから解放する


以上の実践により
「脱力」した状態を体感してもらうことが
できたかと思います。

しかしながらいざ弾き始めると
肩から腕にかけて余計な力がどんどん入ってきてしまう。


これはなぜでしょうか?


ここからが「脱力奏法」の本質です。


弾いている時に無駄な力みが発生する要因、
それは弾いたあとの指の扱い方にありました。


ピアノ奏法における脱力の本質、それは
「鍵盤を押さえつけないこと」です。




□「無駄な力」は、鍵盤を押さえつけることから生じている


まず始めに言っておきたいのが
「ピアノの音は、
鍵盤に触れてから鍵盤が下がりきるまでの
およそ10ミリの間で全てが決まる
ということ。


これはピアノの発音構造を知っていれば
明白なことなのですが、
いまだに鍵盤が下がりきってから
音をコントロールすることができると
信じて疑わない指導者もいるようです。

(※ピアノの発音構造のことについてはまた別の記事で
詳述することとします。)


鍵盤を押し下げる速さこそが
ピアノにおいては音のコントロールのすべてです。

音が出たら最後、
その音はただ自然減衰していくのみです。

このあたりのことについてもまた詳しく記事を書こうと思っています)


ですから、鍵盤が下がりきったあとに
手首をこねくり回してみたりだとか、

弦楽器のヴィブラートよろしく
指を左右に揺らしてみたりだとかいうのは、
全くもってナンセンスです。

観るものを気色悪がらせて
“ある意味”感動させる以外にはなんの効果も
ありませんからやめてください。

本当にあれはなんなんでしょう?
クラヴィコードの師匠にでもついてたんでしょうか?
甚だ疑問です。



さて、話を元に戻します。

鍵盤が下がりきった後の指の力を抜くこと、
もとい、腕や手の重みから指を解放すること。
これが脱力の肝です。

「鍵盤を押さえつけない」とは、つまりそういうことです。



今試しに一つ鍵盤を押してみてほしいと思います。
その鍵盤はおよそ10ミリ沈んだところで
鍵盤の下に敷かれた”パンチングクロス”という
織り合わされた布に接地します。

あなたがピアノを弾くときは必ず
このパンチングクロスに接地する
感触を味わいながら弾いているはずです。


パンチングクロスについた瞬間、
肩・腕・手・指、全ての力を抜く
もとい、指に筋肉はないから、
正しくは、肩から手にかけての力を抜きます。


鍵盤が下がりきってもなお、
力を加え続けることは、
いたずらに次の動作を鈍くするだけです。

これでは速いパッセージなど弾けるはずがありません。


今一度、ひとつの鍵盤を沈めてみてほしいです。
鍵盤が底についた感触がしたら、
抜ける力すべて抜いてみてください。

おそらくあなたの指は
鍵盤が上がろうとする抗力に負けて
ふわふわと上がってきてしまうか、
ぐらぐらと不安定になるかのどちらかだと思います。

最初はそれでいいのです。
一度力をゼロにしてみないことには、
最小限の力がどのくらいなのか、
その感覚をつかむことができません。



鍵盤はおよそ50グラムで下がり、
25グラムの力で元に戻ろうとします。

つまり、25グラム未満の力では
鍵盤の元に戻ろうとする力に指が負けてしまいます。
ですからちょうど25グラムだけの重みを
指に乗せてあげれば良いのです。


この感覚をつかむには慣れが必要です。

鍵盤を弾いたあと、すぐに力を抜く。
鍵盤が上がってこないギリギリの力だけ加える。

これを常に意識すること。

この感覚をマスターすることができると
自分でも驚くほど上達が速くなります。

何よりピアノ演奏の快適さが
断然違ってきます。

より早く慣れるための練習としては
やはり毎日の練習の一番始めに
1音だけ出してみることを
オススメします。

鍵盤の抵抗を感じながら
鍵盤を押し下げ、
鍵盤がパンチングクロスについた瞬間に
力を抜く。
繰り返しの練習により、案外早く身につくでしょう。


さて、ここまでまとめると、
脱力奏法」とは、
「鍵盤がパンチングクロスについた瞬間に
指を腕の重みから解放すること」でした。



最後まで読んでくださった方、
本当にありがとうございます。



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