Fabbrini Steinwayの秘密

再会

  
2017622日、帰宅した私を開きっぱなしのMacBookが迎える。
画面には朝開いていたYouTubeがそのまま写っている。

表示されていた動画を見るともなく再生してみる。

…モーツァルトのコンチェルトか。

年老いた現代の巨匠がしわくちゃな笑顔を見せながら登場する。

演奏が始まるとムーティの大げさな動きに反して
抑制の効いた端正なオーケストラ。
好きな演奏だ。

さてピアノはどうか……?

その時私は、
ピアノの側面に懐かしい文字を見いだしたのだった。





Fabbrini Steinway


Fabbrini Steinwayと呼ばれるピアノをご存知でしょうか?


イタリアの調律師である
アンジェロ・ファブリーニ氏(Angelo Fabbrini)が
ハンブルク・スタインウェイを独自の方法によって
再調整したピアノがこう呼ばれています。


ポリーニが先日来日した際も
このピアノを伴ってやってきていたようです。

実はポリーニ以外にもあのミケランジェリやリヒテル、
シフなどもファブリーニ社の製品を使用しているのだとか。



スタインウェイとの違いは見た目ですぐにわかります。
ピアノの側面、スタインウェイのロゴの真下に、
デカデカと金文字でFabbrini」の文字が貼られています。

他社の製品勝手に改造した挙句に
本家のロゴより目立つように自分の名前貼っちゃうんだから、
たいしたもんです。

そりゃスタインウェイからは快くは思われないでしょうね……。



Fabbriniによる改造


何を改造したか。

そこについては、「調律に手を加える」ほか、
「数々のアクションパーツを交換あるいは再構築」し、
「弦と駒と響板の相互作用を見直す」、
というざっくりした内容しかわかりませんでした。

とはいえこの内容からは
小手先のテクニックだけでなく
かなり大掛かりな作業をしているであろうことが想像できます。

それも、楽器の持つ個性やポテンシャルを
変えてしまうほどの大掛かりな作業でしょう。

ああ作業してるとこ見てみたい〜。


豪華絢爛というにふさわしい音色


その改造が優れた技術によって施されたという事実は
純粋に音色の変化として聴き手に知覚されます。

元来華麗な音色を持つスタインウェイですが、
その音がさらにゴージャスな響きを持つに至っています。

オーケストラに決して埋もれることのない力強さを持ちながら、
うるさく感じさせない気品ある響きで鳴るのが素晴らしいです。


さっきのページ(出典)の筆者は、
このピアノの響きが想起させるピアノについて、
ブリュートナーやメイソン・アンド・ハムリン
などの名を挙げていますが、

私は同じくイタリアのメーカーである、
かのファツィオリとも同様の薫りを感じるような気がします。


楽器の王様と言われるピアノですが
その中でも王様の貫禄があるピアノです。
King of Kingです。



私とFabbriniの出会い 


私がこのピアノの存在を知ったのはおよそ5年前。
高校生の時でした。

YouTubeで動画を見漁っていた時期です。
ちょうどプロコフィエフのソナタをさらっていた時だったので、
彼のコンチェルトを聞こうとしました。

そこで見つけたアルゲリッチの弾く3番のコンチェルト。
(動画探しましたがそれらしいのが見つからず……)
初めてその動画を見たときに、ピアノの音に強く惹かれました。

なんだこの音は。
今まで聴いたことのない音、
何かが違うという確信。

そして見つけました
スタインウェイのロゴの下にある金色の、なんだか読みにくい文字。

当時は気にはなりつつも調べる術も知らず、
そのまま放っておくばかりで、結局5年も経ってしまいました。


今日は思ってもみなかった再会でしたが、
長年気になっていた事柄の正体をつかめてスッキリとした気分です。


下の動画は私が今日見たその動画。



Mozart: Piano concerto n. No. 21 in C major, K.467 Pollini-Muti



新しいピアノ、聞きたくない?


常々感じているのですが、
ピアノ音楽に関して「通」と言われるような人たちの間でも、
ピアニストや作曲家に対する関心に比べて
ピアノそのものに対する関心が弱すぎはしないでしょうか?


コンサートに行けば耳にするのはヤマハかスタインウェイ。

ごく稀にベーゼンドルファー。

ピアノそのものを主眼に置いたコンサートに足を運ばない限り
その他のピアノにお目にかかることはほとんどない。

そろそろ飽きませんか?

ヤマハにもスタインウェイにも。


それから、なぜCDにはいまだに
ピアノの情報は盛り込まれないのでしょうか?

まあほとんどスタインウェイだから、なんでしょうけど、
もうそろそろ楽器を変える動きが活発になっても
いいんじゃないでしょうか?


世界にはたくさんの面白い個性を持ったピアノがあるのに、
ヤマハかスタインウェイの音しか知らないというのは、
ピアノに関わる者としてあまりにも不幸だと思います。


「どのピアノを使うのか」が
ピアニストの個性としても認識されるようになれば、
(限られた数種類の中から選ぶのでなく!)
ピアノ音楽好きとしては
今よりもっと世界が広がる面白い体験が待っているはずです。


それはピアニストとしては必然的にピアノを「持ち歩く」ことになり、
多大な負担を強いられることにはなりますが……。





コメント

  1. このコメントは投稿者によって削除されました。

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  2. 最近クレジットされることが増えました。いい傾向ですね

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